『ホセ・ムヒカと過ごした8日間』(くさばよしみ 著)を読んで。人類の危機は環境の危機ではなく政治的危機

少し前に、『ホセ・ムヒカと過ごした8日間―世界でいちばん貧しい大統領が見た日本』(くさば よしみ 著)という本を読んだ。




ウルグアイのムヒカ大統領のことを知ったのは、2012年にブラジルで開催された国連の地球サミット「リオ+20」での演説に関することがFacebookのタイムラインに流れていたのを見たときだった。ムヒカ大統領は、行き過ぎた消費主義に警鐘を鳴らし、人類の幸せを実現するために生き方を見直すことを、わかりやすい言葉で語っていた。発展とは、「愛」や「子育て」や「友だちを持つこと」をもたらすものであり、人類は(経済的な)「発展」をするためにこの地球上にやってきたのではなく、幸せになるために生まれてきたのだという。

こんなことを堂々と話す大統領がいるのだと驚き、何か「裏」があるのではないかと疑ったくらいだった。

リオの会議では、「水問題」や「環境」の危機などが話し合われたようだが、ムヒカ大統領は表面的な議論に辟易としたのだろう・・・根本的な問題は、現在の社会モデルであり、自分たちのライフスタイルや生き方だと指摘する。そして、人類に立ちはだかる危機は、環境の危機ではなく、政治的な危機だと。

ムヒカ大統領が来日したときに東京外国語大学で行った講演の内容が上の本で紹介されていて、その一節でこう語られている。

人類がこれほどのリソース(資源)を持ったことはなく、これほどまでに生産性が高まったことなどないのに、その恩恵にあずかっていません。『私たちにはもはや手段がない』と言うとしたら、なんて恥ずべきことでしょう。(『ホセ・ムヒカと過ごした8日間―世界でいちばん貧しい大統領が見た日本』[ くさば よしみ 著] p. 65 より)
アメリカでは1分間に100万ドルが軍事予算に使われているらしい。また、世界で大金持ちの62人の富は、世界の人口の半分の約36億人が持つ富の合計と同じとのこと。

リソース(資源)を何に、何のために使うかは、お金の流れに大きく左右される。リソースの分配の仕方や、使い方によっては、世界のさまざまな問題をあっという間に解決することも可能なはず。

それは個人の力で一足飛びに実現するのは難しいけれど、リソースの使われ方を誰かに完全にお任せするのではなく、そこに関わっていこうとしなければ、既にお金や権力をふんだんに持った者たちの好きなように使われることになる。

ムヒカ大統領は、「政治とは、社会全体に心を砕く営み」だと言う。今の世の中、自分のことで精一杯になりがちだけど、自分の日々の暮らしや人生のクオリティは政治に左右される。自分一人は、社会全体の一部であり、人間は他人と関わりなく生きていくことはできない。自分の持ち場で、目の前のなすべきことに精一杯取り組むとともに、ときには視点を変え、視野を広げ、「社会全体に心を砕く」人が増えれば、政治が変わり、リソースの使われ方が変わり、結局は自分の暮らしや仕事、人生にも変化を及ぼすことになるのではないか。

最後に、ムヒカ大統領の言葉をもう一つ、引用したいと思う。

私たちが政治を放棄すれば、少数者が支配する社会になります。
あなたが政治に関心を向けないなら、あなたはそんな体制を望んだということです。(『ホセ・ムヒカと過ごした8日間―世界でいちばん貧しい大統領が見た日本』[ くさば よしみ 著] p. 70 より)


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by 硲 允(about me)
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