「新卒フリーランス」という言葉から思ったことを徒然に。


最近、「新卒フリーランス」という言葉をネット上で時々見かける。

ぼくが新卒の頃は、見たことのない言葉だった。当時(今もそうだと思うけれど)、フリーランスというのは、会社などで経験を積んだ後でないとなれないものだというのが一般的な考え方だった。

ぼくは大学生の頃、通訳者になることを目指していた。通訳の仕事でフリーランスになるには、企業で雇われながら通訳の経験を積むなどしてから独立するというのが一般的なコースとされていた。大学を卒業して、いきなり独立して、「フリーランスの通訳者です」と名乗るのは勝手だが、普通、それで生計を立てていけるくらいの仕事が見つからないし、実力も伴わない場合が多い。

ぼくは大学を卒業する頃、関心が通訳から「起業」に移っていて、東京の家族経営のリサーチ会社で数年間働いた。毎日出社するわけではなく、家で仕事をすることも多く、出版社や塾のバイトの仕事も掛け持ちしていた。リサーチ会社から固定収入をいただいていたが、働き方のスタイルとしてはフリーランスに近いものがあった。

リサーチの仕事は、英語で調べものをして日本語でまとめるというものだったので、翻訳の勉強になった。高校から大学まで「英語の虫」のように英語ばかり勉強していたが、いきなりちゃんとした翻訳ができるわけではなく、最初の頃は、誤訳したり日本語がヘンだったりで、仕事をしながらずいぶん勉強をさせてもらった。

その会社で2、3年働いた後、転職しようとしたが、途中で自分が何をしたいのかわからなくなって、どこか気の進まないところに就職するよりはひとまずゼロから始めようと思ってフリーランスになることにした。

フリーランスで自分にできる仕事と言えば、ひとまずは英語の仕事だったので、翻訳と塾講師の仕事から始めた。フリーランスで翻訳の仕事をするには、翻訳会社(翻訳エージェンシー)に登録して仕事を請けるのが一般的な方法。とはいえ、経験何年以上(3年とか5年とか)、という条件があり、応募できるところは限られていて、応募しても返事すらなかったり、試験で落とされたりして、そう簡単には仕事が得られなかった。そのうち、エコネットワークスという会社と出会い、継続的に翻訳や英語のリサーチの仕事をするようになり、そのうち、他の仕事も増えてきて、フリーランスでも何とか生計を立てていけるようになった。

当時に比べると、今は「ランサーズ」や「クラウドワークス」などがあり、「新卒フリーランス」でも仕事を見つけやすくなったのかな、と思うこともあるけれど、報酬を見るとびっくりするくらい安いものが多く、こんな仕事ばかり続けていたら疲弊してしまいそうだ。

先日、ディー・エヌ・エー(DeNA)社が、クラウドソーシングサービスに登録する外部ライターに安い値段で医療関係の記事を書かせていたが、その記事制作におけるプロセスに批判が相次いでサイトが閉鎖されたという話を相方から聞いた。「安かろう悪かろう」の仕事では、どこかに破綻が生じる。

一概に「新卒フリーランス」といっても、どういう仕事をするかにもよる。日常の暮らしでかかるお金の額によっても、フリーランスの仕事で稼ぐ必要のある金額が異なってくる。

たとえば、田舎で自給自足的な暮らしをしながら「新卒フリーランス」になりたいなら、ハードルは低いと思う。今お借りしている家は田畑付きで家賃が月1万円だし、ただで家を借りている友人もいる。畑で野菜を育てれば食費が抑えられるし、電化製品に頼らない暮らしをすれば、電気代は500円台に収まるし、田舎といっても場所によっては車なしで暮らせる。毎月かある固定費を抑えれば、現金収入は最低限で暮らしていける。新卒でどうしてもいきなりフリーランスになりたければ、このように田舎暮らしという選択肢もあるが、そういう暮らしが好きでなければすぐに出ていくことになるかもしれないので、「田舎暮らしがしたい」というのが前提になるとは思う。フリーランスになりたいけど、都会では生活費がかかりすぎるから、田舎へでも行くか、というのでは、田舎暮らしにつきまとう大変なことや面倒なことを乗り越えるのが難しいかもしれない。

「田舎には仕事がない」というフレーズをよく見聞きするけれど、フリーランスの働き方に相性のいい仕事がいろいろある。夏場の草刈り、桑の実の収穫、花の手入れなど、季節ごとのアルバイトの仕事がいろいろあり、田舎で人間関係ができてくるとそういう仕事に声を掛けてもらえることがあり、自分主体の仕事に加えて、好みに応じたいろいろなアルバイトを掛け持ちして生計を立てている友人も多い。

「新卒フリーランス」になろうかと思ってる、なんて誰かに言うと、ネガティブな反応が返ってくることのほうが多そうだが、その気になって努力すれば何とかなると思う。「新卒」ではないが、ぼくもフリーランスになるときは、大丈夫なんだろうかと毎晩布団の中で悶々と悩んでいたが、何とかなった。若くて体力があれば、仕事が見つからなくていざとなれば、田舎の家賃の安い家に引っ越してアルバイトをすれば生きていける。気持ちにゆとりをもって、他人に親切にしていれば、誰かの助けも得られる。

要は、自分が何をしたいか。どんな仕事がしたいか。仕事で何を生み出したいのか。どんな暮らしがしたいか。自分がどんな人間がなりたいのか。この世界に何をもたらしたいのか。自分の仕事について考えるというのは、そういう根本的なところが問われている。


【関連記事】