お金を稼ぐ必要がなければ何をして暮らすか?



「お金を稼ぐ必要がなければ何をして暮らすか?」

時々、そんな問いを見聞きしますが、これはなかなか、そんな状況になってみないとわからないものです。

東京で暮らしていた頃は、家賃が6万円近くかかり、ちょっと電車で出かけて外食したり買い物したりすると毎回5000円近くかかり、財布の中身がすぐに空っぽになりましたが、香川に移住してからは、家賃は月1万円(田畑込み)、お米や野菜を育てているし外食も減ったので食費が減り、ものの値段も東京より安いことが多いので、だいぶお金のかからない暮らしになりました。洗濯機や冷蔵庫、テレビなどの家電はなく、小さなソーラーシステムを活用しているので、電気代はだいたい500円台。月に10万円もあれば暮らしていけます。

香川に来て1年目は、初めてのお米づくりをし、機械を使わずに道具は鎌とスコップだけで、5畝(約500平方メートル)弱の田んぼの草を来る日も来る日も刈り続けました。翻訳などの仕事を増やすと草刈りが間に合わないので、デスクワークはなるべく控えめにし、田畑に出る時間を確保しました。

こっちに来て生活費が前よりかからなくなり、それくらいの仕事でやっていけるようになったので、「お金も締め切りも気にせずに、大空の下で草を刈り続けていれる喜び」を感じたものです。

1年目はすべてが新鮮で、稲が芽を出しては感動し、背が伸びては喜び、穂を出しては驚き、収穫し、苦労して脱穀して初めて口にしたときの喜びと達成感は、これまでの人生で経験したことがないくらいでした。さすがに2年目は、また草刈りだけで1年が終わるのはどうかと思い、草刈り機を導入しました。お米や野菜を育てるのは楽しいし、「自給自足」的な暮らしを追求するのも面白いけれど、自分の小さな世界だけで完結していてはもの足りないことに気づき、本をつくったり、何か外に向かっていくこともしようと考えました。

お金を稼ぐためにやりたくない仕事をするのは嫌なので、やりたくない仕事を減らすためになるべくお金のかからない暮らしに少しずつシフトしてきました。最初のうちは、満員電車で会社に出勤しなくていいとか、決まった時間に決まった場所へ行かなくていいとか、「お上」の指示に従わなくていいとか、そういう「マイナス」のものが無くなることで喜びが得られるのですが、それが当たり前になってくると、毎日がもの足らなくなってくるものです。

そうなってようやく、自分は一体何をしたいんだろうということを本気で悩み始めました。いろんなことに追われていると、そんなことを考える暇も気力も残りませんが、時間にも気持ちにもゆとりができると、じっくり考えることができるようになります。

「お金を稼ぐ必要がなければ何をして暮らすか?」という問いですが、ぼくはお金を稼ぐ必要がないとしても、今とたいして変わらない暮らしをしているように思います。

東京にいた頃は、忙しく働いてまでお金を稼がなくてもいいと思っていましたが、最近は、楽しいことをしてお金を得て、世の中をもっと楽しい場所にするために使っていきたいと思うようになりました。香川に来てまだ2年と少しですが、暮らす場所や毎日の暮らしが変わると、人間というのは思いのほか変化するものだなぁと感じています。


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by 硲 允(about me)
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