矢野智徳さんの「大地の再生講座」(広島)に参加。「風の草刈り」など

畑や庭でどんどん勢力を伸ばす、やぶがらし。これを刈ったり引っこ抜いたりするのではなく、くるくる巻いて、あなたの役割は終わりました、ありがとう、と言って地面に置いておくと枯れてしまうという記事を相方が見つけて、ぼくに教えてくれました。

それは、「地球の庭師」と呼ばれている矢野智徳さんのワークショップでの一場面でした。矢野さんがされていることに興味を持って、調べてみると、風や水の流れを整えることによって大地を再生されているようでした。

ぼくは自然農に関する本を読んで、草や虫をどうするか、肥料はどうするか、耕すのか耕さないのか、というようなことは勉強してきましたが、田畑とその外部環境を大きく捉えて、風や水の流れを考えたことはほとんどありませんでした。これは自分に無知の領域で、きっと学ぶことが多いに違いないと考え、広島で行われたワークショップに参加してきました。

自然栽培で野菜がすくすくと育つ畑をつくるべく、民家の庭を再生する参加型のワークショップでした。

まずは、草刈りから。その草刈りが普通の草刈りとは違い、「風の草刈り」と呼ばれる方法を用います。のこぎり鎌を使い、手首のスナップをきかせ、鎌を持たない方の手で草をつかまず、右利きながら右手だけで、風が吹いたときに草がしなったり折れたりする位置で、風のようにザッザッと鎌を当てます。地面からの高さは、だいたい10〜15センチくらいでしょうか。根元から草を刈ると、草がまたすぐに勢い良く伸びてきますが、この刈り方をすると、草がゆるやかに伸びてくるそうです。刈った草はそのままそこに置いておく。風に学ぶ草刈りです。

次は、庭に積み上がった廃材の片付け。素材や大きさごとの山に分けていきます。このとき、空気や水、風、そして人の動線を妨げず、置きやすく、取りやすい(使いやすい)ように物を配置するとのことでした。そして、最初から100%完璧に整理しようとせず、持ち時間を考え、目的をはっきりさせて、なるべく動かさずに置き換えるといいます。


これは家の中の整理にも適用できる方法だと思いました。ぼくはその真逆で、片付けというと机の引き出しから整理し始めたり、本棚の本やノートを読み始めたり、収納していたものをとりあえず出して散らかしたりすることがありますが、部屋の中でも空気や風や人の動線を考えて、なるべく物を動かさずに片付けたらどうなるか、試してみたくなりました。

畑にしようとている場所は、移植ごてで掘ってみると土が堅くなっていました。草を刈り、庭の廃材を片付けることで、風の通りはだいぶよくなりましたが、土の中の水や空気を通りをよくする必要があります。

そこで、この土地や周囲の地形を見て、地面にユンボという工事現場でよく見る機械で水脈を掘っていきました。



どこをどう掘るか。それは矢野さんが長年鍛え上げてきた勘と感覚が頼りで、素人が簡単に真似することは難しそうですが、敷地の両側を流れる川の上流から下流に向けて、実際に水を流したらスムーズに流れていくような形で掘っていきました(ここに水を流すわけではありません)。


堀った穴には、一番下に炭を敷き、場所によっては(時間が経っても水脈が塞がれることがないように)太めのパイプを入れ、その上に木材や木の枝を乗せていきます(下のほうに大きめの木、上には細い枝)。穴を堀ったときにでてきた岩は、水脈を塞がない程度の量を穴に戻しますが、そのときに、水脈の中心に置くのではなく、両側から転がすように落とし、その上に根っこのついた草を置いて踏みしめて固定します。


川の上流の方から通してきた水脈は、この土手を降りて川につながります。自然にできた川のように蛇行しています。

土手の上に見えるクルミなどの木は、一見枝を張って元気そうにも見えますが、上の方の枝を勢い良く伸ばしており、それは下の方の根を張れずに苦しんでいる姿だということでした。木の枝と根の形は連動していて、下の方の枝は地表に近い根、上の方の枝は地中の深い方の根の状態を表しているとのことでした。水脈をつくり、地面に水と空気がよく通るようになったので、この土手の上の木々は元気になり、ここを果樹園にすることも可能だそうです。

再生されたこの土地が、今後変化していくのか、楽しみです。ここでのワークショップの続編も開催されるかもしれないとのことでした。もし決まれば、このブログでもお知らせしたいと思います。

矢野さんがワークショップの中でおっしゃっていた、「日々、五感を磨いて生の世界と付き合う」という言葉が印象に残っています。これは、どんな仕事をするにも根本的に大事なことだと思いました。


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矢野 智徳(やの とものり)さん プロフィール
1956 年福岡県北九州市生まれ、花木植物園で植物と共に育つ。東京都立大学において理学部地理学科・自然地理を専攻する。全国を放浪して各地の自然環境を見聞し、1984 年、矢野園芸を始める。1995年の阪神淡路大震災によって被害を受けた庭園の樹勢回復作業を行う中で、大量の瓦礫がゴミにされるのを見て、環境改善施工の新たな手法に取り組む。1999 年、元日本地理学会会長中村和郎教授をはじめ理解者と共に、環境 NPO 杜の会を設立。
現代土木建築工法の裏に潜む環境問題にメスを入れ、その改善予防を提案。在住する山梨県を中心に、足元の住環境から奥山の自然環境の改善までを、作業を通して学ぶ「風土の再生」講座を開設中。
共著に「家業(エコロジー)スタイルの時代ー自分らしく働きたい人に」(1998年)がある。